[OculusRift]素人がVRソフトを展示しながら考えた、没入体験中の説明のしかたについて

OculusRift をはじめとするヘッドマウントディスプレイを使った体験の操作方法等を説明するとき、体験者には画面以外の現実世界が見えないことによる難しさがあります。

さらに、ヘッドフォンを併用する場合には外の音声も聞こえづらくなるため、より難しさが上がります。

また、より高い没入感を実現するためには、コンテンツ内容に合った形での説明が望ましいと考えられます。

本記事では、このように視覚、聴覚に制約のある中で、没入感を損なわない説明のしかたについて思うところを書いていきます。

筆者について

素人です。

OculusRift の体験会 Ocufes で何度かコンテンツを展示し、百名以上の方に目の前で体験いただきました。本記事はほぼこの経験によってのみ書かれたもので、専門的な知識は含まれません。

筆者のコンテンツについて

少し宣伝になってしまいますが、具体例として使うために説明させてください。

見習い空賊と天空の少女 という、映画のような世界で主人公の少年になって少女を救出しに行くフライトアトラクションです。


体験者は OculusRift とヘッドフォンを装着し、背もたれのない椅子に座ります。

VR 空間の中では、体験者は飛行機の後部座席に座っており、序盤~中盤は船長の操縦により少女のいる塔を目指すフライトを体験します(下図左)。

終盤では、少女をキャッチするために上図のような姿勢を体験者が実際にとる必要があり、半回転して後ろを向いた上で足の間から前を見るような動作を行います(下図右)。


操作および操作説明に関係する点をまとめると以下になります。

  • OculusRift 体験が初めての方を主に想定
    • 操作は少なくし、マウス、キーボード等の入力デバイスは使わない
    • 飛行機の操縦も自動で、進行に必要な操作は終盤の姿勢変更のみ
    • おまけとして、特定の場所を注視するとリアクションが返る
  • 展示等で説明員がいる状況を想定
    • ただし、操作説明的には個人でもプレイ可能なものを目指している
    • 展示に限っているのは周辺機材が特殊なことと、お借りした MMD モデル/ステージの都合、またオマージュ色が濃い内容のため
  • 座ってのプレイを想定
    • 現実の姿勢と一致していた方が没入感が高く、説明もしやすい
  • ヘッドフォンの利用を想定
    • より没入感を高めるため
    • コンテンツ内の音声による説明をより聞き取りやすくするため

プレイ形態について

説明のしかたについて考える前に、前提条件を検討します。

まず、コンテンツがどのような状況でプレイされるかを、説明員がいる状況でのデモと、ダウンロード配布等で個人でプレイする場合に大別することにします。

説明員ありのデモの場合、事前またはリアルタイムでの口頭説明が可能ですが、人数を回転させる必要がある場合が多く、一人ひとりの説明やプレイそのものに割ける時間は短くなりがちです。

個人でプレイする場合はそうした説明は当然不可能ですが、マニュアルを読んだりトライ&エラーをする時間はもう少し長くとれます(飽きられなければ)。

スピーカーかヘッドフォンか

音を出すのにスピーカーを使うかヘッドフォンを使うかについて考えます。

ヘッドフォンをつけると説明員の声が届きにくくなります。特にBGMなどで常時音を出す場合は、体験中のリアルタイムな説明は難しくなります。

しかし、コンテンツ内の音はよく聞こえる上に、周囲の喧騒もカットできるため、より没入感の高い体験を提供できると考えられます。

スピーカーを使うメリットとしては、観客にも音が聞こえる点が挙げられます。また、コンテンツによっては観客の反応をあえて体験者に届けたい、体験の一部として使いたいこともあるでしょう。

ただしスピーカーの場合、体験者が首を回したときに音のステレオ位置が合わなくなるのを避けるため、あらかじめコンテンツ側で工夫が必要です。例えば Unity であれば、AudioListener がカメラに追従して回転しないようにします。

オーディオ出力を分岐してヘッドフォンとスピーカーを併用することも考えられますが、上記した音の位置のずれは注意しておいたほうがよいでしょう。

入力デバイスと操作系について

VR 体験中に体験者が何かをする場合、入力デバイスが必要になります。

個別に解説すると記事の範囲を超えてしまうので簡単にですが、以下のようなものがあります。

  • マウスやキーボード、ゲームパッドなどの一般的なデバイス
  • より VR に適した入力デバイス
    • 空中で手のジェスチャを認識できる Leap Motion
    • 手に握ったデバイスの角度と位置を取得できる Razer Hydra (販売終了?) や STEM System (発売予定)
    • 全方位ルームランナーのような Virtuix Omni (発売予定)
    • グローブ型デバイス Control VR (Kicksterter で資金調達成功)
  • 既存の直感入力デバイス流用
    • Kinect、Wii リモコン、PlayStation Move などのゲーム用デバイス
    • スマートフォン、マイク+音声認識、カメラ+画像認識など
  • OculusRift を入力デバイスとして利用するアプローチ

マウスやキーボード、ゲームパッド等のデバイスには、手元が見えないという問題があります。ゲーム等のように画面内にボタン配置の画像を出しても、実際のデバイスが見えない状態では画像と見比べることができません。

こうしたデバイスを利用する場合は、使うボタンを絞って指の配置を変えずに操作できるようにするとよいでしょう。しかし、こうしたデバイスにもプレイ環境を揃えやすいというメリットがあります。

より直感的な入力方法を採用することは没入感の向上につながりますが、それでも大抵の体験者はそうした入力方法に慣れていないので、少なからず説明が必要になります。むしろ、こうした操作系はまだ一般化されていなかったり、技術的な制約があることが理解されていないことで、直感的でありつつも「ボタンを押してください」以上の説明が必要になりがちです。体験者は自分の体が見えていないためか、正確な運動ができないことがあることも覚えておくとよいかもしれません。

(中には一瞬で理解できるものもあります。視線や傾きだけで操作するものは比較的わかりやすいものが多い印象があります。何ができるか体験前でも一目でわかるミクミク握手もデザインが優れていますね。)

こうした入力方法は説明自体にも工夫が必要で、体験者の様子を見つつ「もっと素早く首を振ってください」といった説明の仕方や、場合によっては手を添えて体勢を誘導するような方法が有効であることも多くあります。この点は、説明員なしでプレイする場合や、リアルタイムにコンテンツ外部からの説明が難しい場合には課題となります。

もっとも操作説明が簡単なのは、操作を必要としないことです。逆説的ですが、少なくとも HMD が一般化していない現時点では、見るだけのコンテンツも十分なインパクトを持つことができます。OculusRift 入門ソフトとして不動の地位を築いているジェットコースター体験、RiftCoaster がその最たる例でしょう。

見るだけといっても、体験中にどこを見ていたかでそれぞれの体験者は自分だけの体験をすることができます。なお、視線によって対象物がリアクション(キャラクターが見つめ返す等)する場合、現状はアイトラッキングがないため横目で見ていることを検出できないという課題があります。

なお、これらを複数組み合わせることももちろん可能ですが、操作できることが増えると説明が多くなり難しくなるので、特に短時間の体験向けであれば絞ることも大切です。

コンテンツ内での説明

前置きが長くなりました。ここまでの条件とコンテンツの内容で、実際に何について説明が必要かが決まってくると思います。

マニュアルや説明員によって説明する方法もありますが、なるべくならマニュアルは読まずにすぐプレイしたいと思うものですし、事前の説明はイベント等では回転率を下げる要因となり、体験中の外部からの説明は没入感を損ないます。

そこで、まずは可能な限りコンテンツ内で説明を行うことを考えます。

方法はいろいろと考えられますが、いずれの方法でも気をつけたいのは、没入感を損なわないためになるべくVR 空間での視界と、世界観に合った説明をするということです。

このあたりの話題はゲームの操作説明と重なる部分が大いにあって、例えばキャラクターにぶしつけに A ボタンと発言させるかわりにちょっと言い回しを工夫したり、システム的な内容は字幕で出したりといったものです。

特に VR コンテンツではこうした点はより配慮したいところで、画面に文字や情報を出すにしても例えば SF 作品ならそれらしい HUD や電光掲示板に出すとか、ファンタジーなら看板や魔法っぽいビジョンに映すなどとするとよさそうですし、注目してほしい方向に矢印を出すかわりにエフェクトや音で注意を引くとよいですし、キャラクターが話すときはテキストボックスは出さずに音声で話すべきです(もちろん、声が文字で見える拡張空間にいるといった設定なら話は別です)。

説明を出すタイミングも、体験者の状況を推察して適切に出せると効果的です。

見習い空賊~の例になりますが、終盤のシーンではまず概要として「機体の後ろから身を乗り出して、体験者が少女をつかむ」ということを船長が音声で伝えたあと、後ろを向く指示をします。OculusRift の角度だけでは体の向きはわからず、実際には首をひねっている方が多く見られたため、体ごと向くように念を押しつつ、後ろを向いていなかったら説明を繰り返したり、角度が少し足りないだけならもう少し右などとセリフを変えたりして、段階を追って説明しています。

なお、視界や世界観に合わせた説明は、ある程度以上のところはわかりやすさとのトレードオフになるため、場合によっては割り切る判断も必要かもしれません。その場合、一定時間以上操作に成功していないようなら世界観から外れた説明も行ったり、チュートリアルシーンを用意して本編には説明を持ち込まないというのも選択肢に入ると思います。

また、コンテンツ内での説明の実装コストは軽視できないため、現実的にはこれも考慮に入れる必要があります。

コンテンツ外での説明

コンテンツ内での説明がどうしても難しい、あるいはコスト上の問題で説明を実装できない場合、コンテンツ外での説明が必要になってきます。

個人でダウンロードしてプレイする場合はマニュアルやビデオになりますが、これについてはあまり知識がないことと、一般的な情報として探せば見つかりそうな内容ですのでここでは書きません。

説明員が説明する場合については、事前説明であればあまり世界観に配慮しなくてもよく、体験中の説明は世界観に配慮するか、そもそもしないことが望ましいと思います。

ただし、事前説明はイベント等で人数を回転させる場合にはネックになります。また、操作を事前に説明することによってそれが強く意識されてしまい、その操作ができそうに見える別のシーンでもそれ(ばかり)が実行されてしまう可能性があります。

見習い空賊~の例ですが、終盤でとる姿勢について事前に説明すると、音声での指示がなくても途中で姿勢をとってしまう方が数名みられました。

直接の説明のほかに、イベント等で列がある状況なら、並んでいる方に簡単な資料を渡しておく手も考えられます。また、並んでいる間に体験している方や画面を見ることで、多少雰囲気がつかめるということはあるかもしれません。この効果を狙うなら音はスピーカーから出した方がよいですが、ネタバレしてしまう欠点もあります。

なお、そうそうないとは思いますが、体験中にヘッドマウントディスプレイを外すと、継続プレイが困難なほどにものすごく醒めてしまいます。説明のしかたとは少しずれますが、とあるホラーゲームをびくびくしながらプレイしている最中に、どうしても攻略方法がわからず検索するためにヘッドマウントディスプレイを外したとき、怖さがなくなってしまいやめてしまったことがあります。途中でマニュアルを見るようなつくりは避けたほうがよいでしょう。

(完全に余談ですが、長時間プレイする作品やゲーム外のデータベースが実質必要になるような作品がこれから出てくる際には、安全にヘッドマウントディスプレイを外せるフェードのような表現や、コンテンツ内ブラウザが重要になると思います。そのころには、それでマニュアルを見る選択肢も出てくるかもしれません。)

コンテンツ内外での複合的な説明

ここまででほとんどの内容を書いてきましたが、最後に、コンテンツ内と外の連携をはかる案をいくつか書きたいと思います。

ひとつは、説明員の声や動作をコンテンツとして取り入れる方法です。説明員の操作によって動くオブジェクトや、声をマイクで拾ってヘッドフォンから再生するなどが考えられます。この場合、説明員のアバターとなる NPC を用意しておいたり、電話がかかってくる演出を入れることで違和感を減らせるかもしれません(ヘッドフォン越しに叫ぶのと比べて随分コストがかかるのが難点です)。

事前の説明を、コンテンツの一部のように演出する方法も考えられます。テーマパークのアトラクションの待ち時間や説明時のやり方です。

VR 空間内と現実を合わせることで、状況の理解を早める手もありかもしれません。Ovrvision で現実のコントローラーや姿勢を見せてしまうとか、VR 空間内がコクピットであれば現実側にもそのような装飾を施しておくとか、最近の例ですと現実と同じソファが VR 空間内にもあることでスムーズに入り込めるエクストリームソファのような取り組みもありました。

これらは単に説明のためとして見るには大掛かりですが、うまく使えば体験自体をよりおもしろくできる可能性があると思います。

おわりに

長文にお付き合いいただきありがとうございました。

なんだかすごく考えてる風に書きましたが、見習い空賊と天空の少女の終盤の姿勢をコンテンツ内の説明だけで正しくできる方はまだ半分くらいで、それ以外の方には外からサポートをしている状況です。

今後の改良のためにもと思い、一度まとめてみることにしました。何かのお役に立てば思います。

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